Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ひみつ

刺青・秘密

谷崎 潤一郎

Lesen Sie 刺青・秘密 (ひみつ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 32.935 Zeichen · 66 Bildschirme

Aozora Bunko

人通りの絶えた、寒い冬の夜の凍った往来に、カラリ、コロリと下駄の歯を鳴らしながら、新内語りは人形町の方から私の家の前を通り過ぎて、米屋町の方へ流して行く。三味線の音が次第々々に遠のいて微かに消えてしまいそうになる。「天ぷら喰いたい、天ぷら喰いたい」と、ハッキリ聞えていたものが、だんだん薄くかすれて行って、風の工合で時々ちらりと聞えたり全く聞えなくなったりする。………

「天ぷら………天ぷら喰いたい。………喰いたい。天ぷら………天ぷら………天………喰い………ぷら喰い………」

果てはこんな風にぽつりぽつりとぼやけてしまう。それでも私は、トンネルの奥へ小さく小さく隠れて行く一点の火影を視詰めるような心持で、まだ一心に耳を澄ましている。三味線の音が途切れても、暫くの間はやっぱり「天ぷら喰いたい、天ぷら喰いたい」と、囁く声が私の耳にこびり附いている。

「おや、まだ三味線が聞えているのかな。………それとも自分の空耳かな」

私はひとりそんな事を考えながら、いつとはなしにすやすやと眠りの底へ引き込まれて行く。

その覚えのある新内の三味線が、今宵も相変らず「天ぷら喰いたい、天ぷら喰いたい」