Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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けんのよんくんし

剣の四君子

吉川 英治

Lesen Sie 剣の四君子 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.514 Zeichen · 22 Bildschirme

Aozora Bunko

一

一

母のすがたを見ると、甚助の眼はひとりでに熱くなった。

世の中でいちばん不倖せな人が、母の姿であるように見られた。

「どうしたら母は楽しむだろうか」

物心のつき初めた頃から、甚助はそんな考えを幼心にも持った。

ふと、何かの弾みに、その淋しい母が、笑うかのような歯を唇にこぼすと、

「母上がお笑いになった」

と、その日は一日、彼も楽しく遊ぶことができた。

十二、三歳になると、そんな考えがもっと深くなって、

「なぜだろ?」

と、思うようになった。

自分が何をした時に、母の顔が欣しそうになるか、に気がつきだした。

「書が好く読めた時と、長柄の刀で、樹がよく斬れた時だ」

少年林崎甚助は、それからよけい声を張って良く書を読み、外へ出ては、身丈に過ぎた長巻刀を把って、丈余の樹の梢を、跳び斬りに斬って落した。

古い土塀門の外に佇って、母は時折、微笑んでくれた。

その母は、またなく美しい人だった。年もまだ若かった。名は楡葉といった。

楡葉は若後家であった。祖先からの土豪造りの家は、羽前の大川最上の流れに沿い、甑嶽の麓にあった。山形から十里余、楯岡の砦から北へ一里、土称林崎という部落にあった。