Japanische Klassiker mit Furigana
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けんのよんくんし
剣の四君子
吉川 英治
Lesen Sie 剣の四君子 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.514 Zeichen · 22 Bildschirme
八
「八、九十日から先は、一切夢中でございました。何も覚えませぬ。精も力も尽き、昏々と仆れて夢中の霧につつまれたように気を失ったのが、ちょうど百日目の暁方でございました」
「それだけか」
「それだけです」
母はやや失望の色を泛かべた。けれど甚助の胸には、口で言い現し難い何ものかが実は宿っていた。けれどそれを説明する言葉がなかった。
「行って参ります。――母上、もう一度お暇を下さい。こんどは、坂上主膳へ出会って参ります」
数日の後、彼はふたたび、旅へ立った。腰間の一水は、伝家の銘刀来信国の三尺二寸という大剣であったという。
八
京都へ上るその途中だった。やがて木曾路へも近い一夜、信州岩村田の土豪北山半左衛門の家に泊った。
「お客様、逃げて下さい。はやく、はやくたいへんです」
真夜半のことなのだ。
主の子息北山半三郎が寝室へ来て、甚助をゆり起し、顫きながら云うのだった。
「――茨組がやって来ました。木曾の宿々から善光寺いったいを荒して廻る茨組です。家財や金さえ攫ってゆけば立去るでしょうが、お怪我があるといけませんから」
茨組という名は、街道いたる所で甚助も聞いていた。