Japanische Klassiker mit Furigana
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ちどり
千鳥
鈴木 三重吉
Lesen Sie 千鳥 (ちどり) von 鈴木 三重吉 (すずきみえきち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 19.951 Zeichen · 41 Bildschirme
「ええ」
「ではこの押入には、下の方はあたしのものが少しばかりはいっておりますから、あなたは当分上の段だけで我慢してくださいましな」
「………」
「ねえ」
「ええ」
「まあ一心になっていらっしゃるんだわ」という。
ちょうど一と区切りついたから向きなおる。藤さんは少し離れて膝を突いている。
「お召し物も来たんでしょう?――では早くお着換えなさいましな。女の着物なんか召しておかしいわ」と微笑む。自分は笑って、袖を翳してみる。
「さっきね」と、藤さんは袂へ手を入れて火鉢の方へ来る。
「これごらんなさい」と、袂の紅絹裏の間から取りだしたのは、茎の長い一輪の白い花である。
「このごろこんな花が」
「蒲公英ですか」と手に取る。
「どこで目っけたんです? たった一本咲いてたんですか」
「どうですか。さっき玉子を持ってきた女の子がくれてったんですの。どこかの石垣に咲いていたんだそうです。初やがね、これはこのごろあんまり暖かいものだから、つい欺されて出てきたんですって」
返した花を藤さんは指先でくるくる廻している。
「本当にもう春のようですね、こちらの気候は」
「暖いところですのね」
自分はもくもくと日のさした障子を見つめて、陽炎のような心持になる。