Japanische Klassiker mit Furigana
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めいじんでん
名人伝
Lesen Sie 名人伝 (めいじんでん) von Nakajima Atsushi (中島 敦) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.782 Zeichen · 12 Bildschirme
「既に、我と彼との別、是と非との分を知らぬ。眼は耳のごとく、耳は鼻のごとく、鼻は口のごとく思われる。」というのが、老名人晩年の述懐である。
甘蠅師の許を辞してから四十年の後、紀昌は静かに、誠に煙のごとく静かに世を去った。その四十年の間、彼は絶えて射を口にすることが無かった。口にさえしなかった位だから、弓矢を執っての活動などあろうはずが無い。もちろん、寓話作者としてはここで老名人に掉尾の大活躍をさせて、名人の真に名人たるゆえんを明らかにしたいのは山々ながら、一方、また、何としても古書に記された事実を曲げる訳には行かぬ。実際、老後の彼についてはただ無為にして化したとばかりで、次のような妙な話の外には何一つ伝わっていないのだから。
その話というのは、彼の死ぬ一二年前のことらしい。ある日老いたる紀昌が知人の許に招かれて行ったところ、その家で一つの器具を見た。確かに見憶えのある道具だが、どうしてもその名前が思出せぬし、その用途も思い当らない。老人はその家の主人に尋ねた。それは何と呼ぶ品物で、また何に用いるのかと。主人は、客が冗談を言っているとのみ思って、ニヤリととぼけた笑い方をした。