Japanische Klassiker mit Furigana
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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
Lesen Sie 名人地獄 (めいじんじごく) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.286 Zeichen · 301 Bildschirme
「俺か」というと浪人は、顔に殺気を漂わせたが、「仕事に行くよ。仕事にな。……今夜は仕事が出来そうだ」
「どうぞお止めくださいまし」
「ふん、何故な? なぜいけない」
「後生をお願いなさいませ」
「うん後生か。それもよかろう。が、どうして食って行くな」
「饑え死のうではございませんか」
「死ぬには早い。俺はイヤだ」
「妾は死にそうでございます。……殺されそうでございます。……自分で縊れて死のうもしれぬ。……」
「死にたければ死ぬもよかろう」
「あなた!」といって取り縋った。「ひと思いに殺してくださいまし」
「そんなに俺の手で死にたいか」
浪人は鼻でセセラ笑ったが、「そうさ、いずれはそうなろうよ」縋られた手を振り払い、「俺は行くのだ。行かなければならない。鼓賊が俺をそそのかしてくれた。鼓賊が俺を勇気づけてくれた」
「悪行はおやめくださいまし」
「どうしてきょうの日を食って行く」
「ハイ、この上は、この妾が……」
女房は袂で顔を蔽うた。
「うん、やるつもりか! 美人局!」
「ハイ、夜鷹でも、惣嫁でも」
「そんなことではまだるッこいわい!」
ポンと足で蹴返すと、浪人はツト外へ出た。
……開けられた門口から舞い込んだのは、風に捲かれた粉雪であった。