Japanische Klassiker mit Furigana
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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
Lesen Sie 名人地獄 (めいじんじごく) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 149.286 Zeichen · 301 Bildschirme
春が江戸へ訪ずれて来た。この物語りの最初の日から、ちょうど一年が過ぎ去った。「今の世や猫も杓子も花見笠」の、そういう麗かの陽気となった。隅田川には都鳥が浮かび、梅若塚には菜の花が手向けられ、竹屋の渡しでは船頭が、酔っぱらいながら棹さしていた。
一閑斎の小梅の寮へは、相変らず人が寄って来た。ある日久しぶりで訪ねて来たのは、玻璃窓の郡上平八であった。
「これはこれは珍しい。それでも生きていたのかえ」「裾を見な、足があるから。へ、これでも幽霊じゃないのさ」皮肉な二老人は逢うと早々、双方で皮肉をいい合うのであった。「一局囲もうかね、一年ぶりだ」「心得た。負かしてやろう」「きつい鼻息だ、悲鳴をあげるなよ」
パチリパチリと打ち出した。最初の一局は一閑斎が勝ち、次の一局は平八が勝った。で一服ということになった。
「そこでちょっとおききするが、もう鼓賊はお手に入れたかな?」ニヤニヤ笑いながら一閑斎は訊いた。もちろんいやがらせの意味であった。
「うむ」といったが平八は、不快な顔もしなかった。「さよう実は捕えたがな、捕えてみれば我が子なり。……恩愛の糸がからまっていて、どうにもならなかったという訳さ」