Japanische Klassiker mit Furigana
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ほうおんき
報恩記
Lesen Sie 報恩記 (ほうおんき) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 14.803 Zeichen · 30 Bildschirme
太い眉、尖った頬骨、殊に切れの長い目尻、――これは確かに見れば見るほど、いつか一度は会っている顔です。
「おん主、『えす・きりすと』様。何とぞ我々夫婦の心に、あなた様の御力を御恵み下さい。……」
弥三右衛門は眼を閉じたまま、御祈りの言葉を呟き始めました。老女もやはり夫のように天帝の加護を乞うているようです。わたしはその間瞬きもせず、弥三右衛門の顔を見続けました。するとまた凩の渡った時、わたしの心に閃いたのは、二十年以前の記憶です。わたしはこの記憶の中に、はっきり弥三右衛門の姿を捉えました。
その二十年以前の記憶と云うのは、――いや、それは話すには及びますまい。ただ手短に事実だけ云えば、わたしは阿媽港に渡っていた時、ある日本の船頭に危い命を助けて貰いました。その時は互に名乗りもせず、それなり別れてしまいましたが、今わたしの見た弥三右衛門は、当年の船頭に違いないのです。わたしは奇遇に驚きながら、やはりこの老人の顔を見守っていました。そう云えば威かつい肩のあたりや、指節の太い手の恰好には、未に珊瑚礁の潮けむりや、白檀山の匂いがしみているようです。
弥三右衛門は長い御祈りを終ると、静かに老女へこう云いました。