Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

Lesen Sie 夜の靴 (よるのくつ) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 107.056 Zeichen · 213 Bildschirme

Aozora Bunko

呶鳴ったかと思うと、笑ったり、ぺこぺこお辞儀したかと思うと、ふん反り返り、泣き出したかと思うと、鼻唄で闊歩する。信頼をしあうにも、寸断された心の砕片を手に受けて、これがおのれの心かと思うと、ぱッと捨てる。このようなとき、道念というようなものは、先ず自分自身に立腹すること以外手がかりはないものだ。腹立ちまぎれにうっかり呶鳴ると、他人に怒る。何の関係もないものに。――実際、人の心は今は他人に怒っているのではない。誰も彼もほおけた不通線に怒っているのだ。まったくこれは新しい、生れたばかりのものである。間もなくこれは絶望に変るだろう。次ぎには希望に。

八月――日

南瓜の尻から滴り落ちる雨の雫。雨を含んだ孟宗竹のしなやかさ。白瓜のすんなり垂れた肌ざわり。瞬間から瞬間へと濃度を変える峯のオレンヂ色。その上にはっきり顕れた虹の明るさ。乳色に流れる霧の中にほの見える竹林。

八月――日

ここへ移ってから一番自分を悩ますものは蚤だ。昼間も食事をしている唇へまで跳びこんで来る。大げさにいえば、顔を撫でると、ぼろぼろと指間からこぼれ落ちそうな気配で、眉毛にも跳びかかる。