Japanische Klassiker mit Furigana
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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
Lesen Sie 夜明け前 (よあけまえ) von 島崎 藤村 (しまざきとうそん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 105.172 Zeichen · 206 Bildschirme
」
問う人は半蔵、答える人は彼に二階の部屋を貸している多吉の妻だ。その時のお隅の挨拶に、
「まあ聞いてください。吾夫でも好きな道と見えましてね、運座でもありますとよくその方の選者に頼まれてまいりますよ。昨晩の催しは吉原の方でございました。御連中が御連中で、御弁当に酒さかななぞは重詰めにして出しましたそうですが、なんでも百韻とかの付合があって、たいへんくたぶれたなんて、そんなことを言っておそく帰ってまいりました。でも、あなた、男の人のようでもない。吉原まで行って、泊まりもしないで帰って来る――意気地がないねえ、なんて、そう言って、わたしは笑っちまいましたよ。」
「どうも、おかみさんのような人にあっちゃかないません。」
「ところが、青山さん、吾夫の言い草がいいじゃありませんか。おそく夜道を帰って来るところが、おれの俳諧ですとさ。」
多吉夫婦はそういう人たちだ。
十年一日のように、多吉は深川米問屋の帳付けとか、あるいは茶を海外に輸出する貿易商の書役とかに甘んじていて、町人の家に生まれながら全く物欲に執着を持たない。どこへ行くにも矢立てを腰にさして胸に浮かぶ発句を書き留めることを忘れないようなところは、風狂を生命とする奇人伝中の人である。