Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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だいぼさつとうげ

大菩薩峠10

中里 介山

Lesen Sie 大菩薩峠10 (だいぼさつとうげ) von 中里 介山 (なかざとかいざん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 285.635 Zeichen · 558 Bildschirme

Aozora Bunko

晩餐の時、金椎が大きな不安の色を以て、筆談で念を押した時も、あの子に限って大丈夫よ、と信任を置いて打消した娘であるのに、今になって、その名を呼びながら、帰れ帰れと、さまよい出したのは、何かしら不安に襲われて、堪え難かったからであろうと思います。

陸も、海も、暗く、層々と押寄せて来る波がしらだけの白いのが見えます。

両袖を胸に合わせて、すっきりした体を両足に載せ、爪先立って早足に砂浜を走りながら、岡本兵部の娘は、

「ホ、ホ、ホ、ホ……」

と、何か淋しそうな思出し笑いをして、

「おかしいじゃありませんか、昨日、漁師たちが造船所で話をしているのを、そっと聞いていると、わたしのことを、あれは駒井の殿様のお妾じゃないか知ら、きっとそうに違いない、なんて、まじめで噂をしているんですもの」

そう言って振返って、遠見の番所にかがやく火の光を暫くながめながら、足はやはり茂太郎の行った方向に、休まず歩みつづけられている。

「いやだねえ……お妾だなんて。何も関係はありゃしないのよ。ですけれど、有ったところでどうなの……有っちゃ悪いの?」

思出し笑いに、凄味というようなものが加わって、その眼の中にいっぱいの媚が流れる。