Japanische Klassiker mit Furigana
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めおとのあさ
夫婦の朝
山本 周五郎
Lesen Sie 夫婦の朝 (めおとのあさ) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.008 Zeichen · 22 Bildschirme
「あの……もし」
そう呼ばれてお由美が振返ると茶汲み女の一人が側へ来て、
「ちょっと是を」
云いながら小さな紙片を差出した。
なんの気もなく受取ってみると、二つ折にした中になにか書いてある、披いたお由美の眼へいきなり「新五郎」という署名がとびこんで来た。
お話があります、供の者をお帰しなさい、不承知なら其処へ名乗って出ます。
その短い文字はお由美の全身の血を凍らせた。息の止まるようなとは此事であろう。お由美は懸命に驚愕を抑えながら、素早くその紙片を丸め、
「分りました、これで」
と銭入から夢中で、幾らとも知れず取出して女の手へ渡し、
「よね、参りましょう」
そういって立上った。
震える足を踏みしめながら二三十間行くと、尖ったお由美の神経は直ぐに、後から跟けて来る人の跫音を感じた。
……不承知なら其処へ名乗って出ます、そういう声を、すでに忘れて久しい男の蒼白い、眼の鋭い顔が歴々と思い出される。
「……ああ、よね」
お由美はふと立止った。
「おまえの家はたしか、この近くではなかったかえ」
「はい、瓦町と申しまして此処から」
「宜いからね、おまえは家へ寄っておいで、私は出たついでにこれからお友達を訪ねます」