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Japanische Klassiker mit Furigana

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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

Lesen Sie 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.681 Zeichen · 22 Bildschirme

Aozora Bunko

「辱けない、御造作に預かる」

忠弘はそう四角几帳面に礼を言って、弁当の箸を取るほど打ちとけていたのです。

素より簡素な食事で、大名の倅の忠弘から見れば、これで人間が生きて行くのが不思議な位ですが、餓じい時の何んとやらで、沢庵の尻尾も照り田作も、時に取っての珍味でないものはありません。

食事が済むと、女は立ってもう一度櫓に寄りました。あの凄まじい豆の手で漕ぐのかと思うと、考えただけでも、寒気がしますが、女の辛抱強さはまことに非凡で、恐ろしい努力の後、永代の深川寄りの岸に着けたのは、その夜もやがて亥刻半(十一時)過ぎる頃でした。

振り返ると本郷から神田の空へかけて、まだ燃えさかる焔を映して真赤、咆え狂う北風に煽られて、この劫火はいつ消えるとも見当はつきません。

「いらっしゃる当が無ければ、八幡前の私の叔母の家へ参りましょう。それは気の置けない人ですが」

「左様いたそうか」

伊予守忠弘は、今ではこの女の意志に引摺られる外はありません。山の手一円の火の海で避難者の気違い染みた奔流が、あらゆる道という道を封じているので、これを押し切って、半蔵門外の上屋敷に馳け付けることなどは思いも寄らなかったのです。