Japanische Klassiker mit Furigana
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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Lesen Sie 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 11.033 Zeichen · 22 Bildschirme
一
一
笠森仙太郎が偶然を支配し得ると信ずる様になったのは、X大学の法科に在学中の頃からでした。その頃の仙太郎は、まことに弱気な青年に過ぎず、何をやってもヘマばかり演じていたのですが、試験の前にすっかり遊び過してしまって、A教授の民法の試験に、一行も答案を書くことができず、二時間という長い間、カフス釦ばかり嘗めたあげく、とうとう落第を覚悟で白紙を出してしまったことがあります。
白紙の答案というものは、一応勇しく聴えますが、出す当人に取っては、まことに悲しききわみで、これほど悲壮なものはありません。笠森仙太郎はすっかり憂鬱になって、学校の近所の喫茶店へ入って、雑巾水のような紅茶を呑んでいると、そこへ入って来たのは、同じ級の丹波丹六という胆汁質の見本のような男でした。
「オイ、どうした笠森、大変青い顔をしているじゃないか、気分でも悪いのか」
「青くもなるよ、試験が滅茶滅茶だ」
「滅茶滅茶というと?」
「白紙を出したよ、一行も書けなかったんだ」
「なんという馬鹿なことをするんだ、一行でも書ければ点数になるじゃないか」
「俺にはそれができなかったのさ、見す見す出鱈目と知っていて、一行でも二行でも書くことは、良心に対して済まない、それよりは白紙を出してなんかの偶然を待つ方が宜い――」