Japanische Klassiker mit Furigana
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おくのうみ
奥の海
久生 十蘭
Lesen Sie 奥の海 (おくのうみ) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.005 Zeichen · 26 Bildschirme
御用所用人の役目で、物書などの出る幕ではないのだが、その年は事務繁多で手繰りがつかず、金十郎が用人並に格上げされて邸廻りをした。
天保元年に、京都に地震があり、ほうぼうの築地や下屋が倒壊したが、その修理もまだできていない。公卿の館も堂上の邸も、おどろしいばかりに荒れはて、人間の住居とも思われない。
金十郎は階ノ間に通って、几帳の奥にいる方に進物の口上を披露するのだが、行く先々で見物にされるのでやつれてしまった。摂家も清華も、貧乏なくせに位ばかり高く、位負けして適齢を越えても、嫁に行くことができない。そういうお姫さま方が、人懐しそうに几帳の陰からジッとこちらを見る。黒い眼が金十郎の顔に吸いついて離れない。
あえかにも美しいひとたちが、五十の皺面に仇な化粧をし、几帳の陰でひっそりと朽ちて行くのかと思うと、いかにもあわれである。力に及ぶことなら、不幸な境界からひきだしてやりたい。そういう鬱懐があるので、烏丸中納言の館に上ったとき、つい思いが迫って、几帳の奥のひとに口説きかけたら、うれしく思います、という返事があった。
ひと月もたたぬうちに、そのことは御用所じゅうに知れわたった。