Japanische Klassiker mit Furigana
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こをうばう
子を奪う
豊島 与志雄
Lesen Sie 子を奪う (こをうばう) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 39.292 Zeichen · 80 Bildschirme
彼はただ、額ににじみ出てくる汗を我慢することに、全力をつくした。やがて眼がはっきりしてきた。幾代の膝に半ば身体をもたして、顔を伏せてる小さな子を、彼は見た。細かな柔かな髪の毛と円っぽい手の爪とが、はっきり眼の底に残った。彼は立ち上ろうとした。その時、子供を見守ってる敏子の眼を感じて、また坐り直した。敏子の方へ顔を向けることが憚られた。執拗に子供を見守ってる彼女の眼が、眼には見ないでもそれと感ぜられるその眼が、一種の威圧を彼の上に及ぼしてきた。彼は睥むように瞳を上目がちに見据えて、子供の前に沢山散らかってる玩具を、一つ一つ眺めやった。一本の糸に繋がれてる大きな兎と亀とがあった。畳の上に平べったくなってる亀の姿が、殊にそのふらふらの長い首が、変に気味悪く思われた。立ち上ってそいつを蹴飛したいような気になった。じりじりしてきた。
「さあ、お父様に抱っこしてごらんなさい。」と幾代は云っていた。
「ほんとにはにかみやさんですね、先刻まであんなに元気だったのに……。尤も、はにかむ位の子供の方が、頭がよいと云いますが……。」
子供は幾代の影から、そっと頭を上げて、彼の方を覗いた。