Japanische Klassiker mit Furigana
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ろうじゅうのめがね
小笠原壱岐守
佐々木 味津三
Lesen Sie 小笠原壱岐守 (ろうじゅうのめがね) von 佐々木 味津三 (ささきみつぞう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 57.249 Zeichen · 115 Bildschirme
とうにもう秋は来ている筈なのに、空はどんよりと重く汚れて曇って、秋らしい気の澄みもみえなかった。
もしそれらしいものが感じられるとすれば、土手の青草の感じの中に、ひやりとしたものが少し感じられるくらいのものだった。
そういう秋の情景のない秋の風景は、却って何倍か物さびしかった。
平七は、ぼんやりとした顔つきで、ふらふらと土手を下へ下って行くと、吾妻橋の方へ曲っていった。
僅かに感じられる江戸の名残りだった。たまり水のように、どんよりと黒い水を張った大川の夕ぐれが、点々と白い帆を浮かせて、次第に広く遠く、目の中へひろがって来たのである。
まだ廃刀令も断髪令も出てはいなかったが、しかし、もう大小なぞ無用のものに思って、とうから腰にしていない平七は、でも、そればかりはせめてもの嗜みに残している髷の刷毛さきを、そっと片手で庇うように押えて、残った片手で、橋の欄干をコツコツと叩き乍ら、行くでもなく止まるでもなく、ふわふわと、凧のようにゆれていった。
「川、川、川」
「舟、舟、舟だ」
「水もだんだんと濁って来たなあ……」
ふわりと止まると、平七は、コツコツとやっていたその手の中へ、投げこむように頤をのせて、ぼんやりと水に目をやった。