Japanische Klassiker mit Furigana
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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 少将滋幹の母 (しょうしょうしげもとのはは) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 83.234 Zeichen · 160 Bildschirme
と、突然父が、
「和子はこれを覚えているかね」
と云いながら、鉄の棒のようにコチ/\した腕を伸ばして、花やかな一枚の衣の衿をつまんだ。
滋幹が傍へ寄ると、父はその衣を両手で捧げるようにして滋幹の前へ突き出したが、次にはそれに自分の顔を押しあてゝ長い間身動きもせずにいた。それから漸く顔を上げると、
「和子もお母さんに会いたいだろうね」
と、しんみりした、同感を求めるような口調で云った。滋幹は父の容貌を、それほど仔細に見たことはなかったのであるが、眼のふちには眼やにが溜り、前歯があらかた脱け落ちていて、そのうえ声が皺嗄れているので、何を云うのか、ちょっとは聞き取りにくかった。それに、父はそんな風に云うのだけれども、その顔は笑ってもいなければ泣いてもいなかった。たゞもう一途な、執心の強い生真面目な表情で、じっと此方の眼の中を視すえているので、滋幹は又気味悪くなって来て、
「うん」
と、頷いたきり立っていた。すると父はだん/\深く眉根を寄せて、
「もうよい、彼方へおいで」
と、不機嫌そうに云い切った。
そんなことがあってから、又滋幹は当分父の傍へ寄り着いたことはなかった。お父さまは今日もお内にいらっしゃいますよ、と云われると、却って父の部屋の方へは行かないようにしたくらいであったが、父は一日閉じ籠って、殆ど姿を見せないのであった。