Japanische Klassiker mit Furigana
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まぼろしのたて
幻影の盾
Lesen Sie 幻影の盾 (まぼろしのたて) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 22.372 Zeichen · 45 Bildschirme
池は大きくはない、出来損いの瓜の様に狭き幅を木陰に横たえている。これも太古の池で中に湛えるのは同じく太古の水であろう、寒気がする程青い。いつ散ったものか黄な小さき葉が水の上に浮いている。ここにも天が下の風は吹く事があると見えて、浮ぶ葉は吹き寄せられて、所々にかたまっている。群を離れて散っているのはもとより数え切れぬ。糸の音は三たび響く。滑かなる坂を、護謨の輪が緩々練り上る如く、低くきより自然に高き調子に移りてはたとやむ。
ウィリアムの腰は鞍を離れた。池の方に眼を向けたまま音ある方へ徐ろに歩を移す。ぼろぼろと崩るる苔の皮の、厚く柔らかなれば、あるく時も、坐れる時の如く林の中は森として静かである。足音に我が動くを知るものの、音なければ動く事を忘るるか、ウィリアムは歩むとは思わず只ふらふらと池の汀まで進み寄る。池幅の少しく逼りたるに、臥す牛を欺く程の岩が向側から半ば岸に沿うて蹲踞れば、ウィリアムと岩との間は僅か一丈余ならんと思われる。その岩の上に一人の女が、眩ゆしと見ゆるまでに紅なる衣を着て、知らぬ世の楽器を弾くともなしに弾いている。碧り積む水が肌に沁む寒き色の中に、この女の影を倒しまにす。