Japanische Klassiker mit Furigana
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まぼろしのたて
幻影の盾
Lesen Sie 幻影の盾 (まぼろしのたて) von Natsume Sōseki (夏目 漱石) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 22.372 Zeichen · 45 Bildschirme
投げ出したる足の、長き裳に隠くるる末まで明かに写る。水は元より動かぬ、女も動かねば影も動かぬ。只弓を擦る右の手が糸に沿うてゆるく揺く。頭を纏う、糸に貫いた真珠の飾りが、湛然たる水の底に明星程の光を放つ。黒き眼の黒き髪の女である。クララとは似ても似つかぬ。女はやがて歌い出す。
「岩の上なる我がまことか、水の下なる影がまことか」
清く淋しい声である。風の度らぬ梢から黄な葉がはらはらと赤き衣にかかりて、池の面に落ちる。静かな影がちょと動いて、又元に還る。ウィリアムは茫然として佇ずむ。
「まこととは思い詰めたる心の影を。心の影を偽りと云うが偽り」女静かに歌いやんで、ウィリアムの方を顧みる。ウィリアムは瞬きもせず女の顔を打ち守る。
「恋に口惜しき命の占を、盾に問えかし、まぼろしの盾」
ウィリアムは崖を飛ぶ牡鹿の如く、踵をめぐらして、盾をとって来る。女「只懸命に盾の面を見給え」と云う。ウィリアムは無言のまま盾を抱いて、池の縁に坐る。寥廓なる天の下、蕭瑟なる林の裏、幽冷なる池の上に音と云う程の音は何にも聞えぬ。只ウィリアムの見詰めたる盾の内輪が、例の如く環り出すと共に、昔しながらの微かな声が彼の耳を襲うのみである。