Japanische Klassiker mit Furigana
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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
Lesen Sie 影男 (かげおとこ) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 154.133 Zeichen · 310 Bildschirme
そのけしきからは、むせ返るような脂粉の香が立ちのぼっていた。そして、もっと不思議なことには、全山が絶えまなく、うようよとうごめいているかに感じられた。
目の前は急な山すそになっていて、その底にかれは寝そべっていた。遠くの山容から、前の山すそに目を移すと、その山には無数の目と、無数のくちびると、無数の手と足とがあることがわかってきた。かすりのように点々として黒いものが見えるのは、女たちの髪の毛であった。顔の上に太ももが重なり、腕と腕とがもつれ、なめらかなかっこうのよいおしりが、無数に露出していた。それは幾千幾万とも知れぬ裸女を積み重ねた人肉の山であった。死体の山ではなかった。それは皆生きていた。生きて積み重なっていた。
影男は、やっとそれを気づいたとき、自然に口がぽかんと開いてしまった。そして、大きな口をあけたまま、痴呆のように、この圧倒的な人外境の風景に見とれていた。
かれが寝そべっていた柔らかい谷底が、やはり女体によって構成されていることがわかった。それは揺籃のようにかすかにうごめいていた。暖かくて、脂粉の香に満ちていた。そこにも無数のにこやかな美しい顔が横たわっていた。