Japanische Klassiker mit Furigana
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こころのかわ
心の河
宮本 百合子
Lesen Sie 心の河 (こころのかわ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.442 Zeichen · 37 Bildschirme
五
若し人間というものが、布で作った着物のように、人の手で解けるものであったら、さよは良人を今こそ熱心に解体し始めたろう。
そして、一つ一つの部分を、自分に納得の行くまで眺め、触り、引かえして見て、また元の形に纏めあげ、心から安(やすら)おうとしたに違いない。けれども、これは空想に於てさい不可能なことである。彼女の前や横には、その点からは手のつけようのない良人が、外見には親しく近く、さよの心から見ると距離が近いだけ一層増す寂寞さで引添うている。
その寂しく苦しい心持は、一ヵ月ばかり前、彼女が独りぽっちで家にいた時のとは全然異ったものであった。ある時は、良人さえ帰れば彼女は忽ち救われた。一日中の圧迫されるような陰気さは、彼の顔を見た刹那に消散した。が、今度のは正反対といえた。さよは、保夫が自分のすぐ傍に坐って、天地の間に唯一つの疑問も不安もないという風に湯上りの濃い髪を艶々させているのを見ると、却って絶望に近いほどの寥しさ、野蛮な焦躁に煽り立てられるのであった。
彼女は、あばれる獣をやっと押えつけているような幾日かを送った。とうとう、辛棒がしきれなくなった。