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Japanische Klassiker mit Furigana

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ただなおきょうぎょうじょうき

忠直卿行状記

菊池 寛

Lesen Sie 忠直卿行状記 (ただなおきょうぎょうじょうき) von 菊池 寛 (きくちかん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 23.602 Zeichen · 47 Bildschirme

Aozora Bunko

すると、忠直卿は、思いのほかに機嫌斜めならずであった。

「ははは、与四郎めが、参ったか。よくぞ参りおった。すぐ通せ! 目通り許すぞ」と、呼ばれたが、この頃絶えて見えなかった晴れがましい微笑が、頬の辺に漂うた。

しばらくすると、忠直卿の目の前に、病犬のように呆けた与四郎の姿が現れた。数日来の心労に疲れたと見え、色が蒼ざめて、顔中にどことなく殺気が漂っている。そして、その瞳の中には、二筋も三筋も血を引いている。

忠直卿は生来初めて、自分の目の前に、自分の家臣が本当の感情を隠さず、顔に現しているのを見た。

「与四郎か! 近う進め!」と、忠直卿は温顔をもってこういわれた。なんだか、自分が人間として他の人間に対しているように思って、与四郎に対して、一種の懐しさをさえ覚えた。主従の境を隔つる膜が除かれて、ただ人間同士として、向い合っているように思われた。

与四郎は、畳の上を三反ばかり滑り寄ると、地獄の底からでも、洩れるような呻き声を出した。

「殿! 主従の道も、人倫の大道よりは小事でござるぞ。妻を奪われましたお恨み、かくのごとく申し上げまするぞ」と、いうかと思うと、与四郎は飛燕のごとく身を躍らせて、忠直卿に飛びかかった。