Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おそろしきさくご

恐ろしき錯誤

江戸川 乱歩

Lesen Sie 恐ろしき錯誤 (おそろしきさくご) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 23.075 Zeichen · 46 Bildschirme

Aozora Bunko

僕は直ぐ様、そいつの家へ飛んで行って、掴み殺してやろうかと思った位だ。……いや、僕は少し興奮しすぎた。もっと冷静にゆっくり話をする筈だった。……その時、僕は妙子の里からよこして呉れた新らしい乳母に抱かれている子供を見ていた。子供は、まだ乳母になつかないで、廻らぬ舌で『ママ、ママ』と、死んだ母親を求めていた。子供もいじらしかった。

だが、こんな可愛い子供を残して死んで了った、いや、殺されて了った母親こそ猶更可哀相だった。僕はそう思うと、『坊や、坊や』と子供を呼んでいる母親の声が、あの世から聞えて来る様な気がした。

君、これはきっと、浮ばれぬ妙子の魂が、どっかから、僕の胸へ囁いたんだね。『坊や、坊や』という妙子の声を想像すると、突然僕は烈しいショックに打たれた。そうだ。それに違いない。……妙子を猛火の中へ飛び込ませる程の偉大な力はこの『坊や』の外には持っていないのだ。……一度盲点が破れると、長い間せき止められていた考が海嘯の様にほとばしり出た。

あの時、僕が第一に、子供を連れて友達の家に避難したことを妙子は知らなかったかも知れない。あの場合そうしたことは、あり得ないことじゃない。