Japanische Klassiker mit Furigana
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おんしゅうのかなたに
恩讐の彼方に
菊池 寛
Lesen Sie 恩讐の彼方に (おんしゅうのかなたに) von 菊池 寛 (きくちかん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 22.824 Zeichen · 46 Bildschirme
道の崩れたのを見れば、土砂を運び来って繕うた。かくして、畿内から、中国を通して、ひたすら善根を積むことに腐心したが、身に重なれる罪は、空よりも高く、積む善根は土地よりも低きを思うと、彼は今更に、半生の悪業の深きを悲しんだ。市九郎は、些細な善根によって、自分の極悪が償いきれぬことを知って、心を暗うした。逆旅の寝覚めにはかかる頼母しからぬ報償をしながら、なお生を貪っていることが、はなはだ腑甲斐ないように思われて、自ら殺したいと思ったことさえあった。が、そのたびごとに、不退転の勇を翻し、諸人救済の大業をなすべき機縁のいたらんことを祈念した。
享保九年の秋であった。彼は、赤間ヶ関から小倉に渡り、豊前の国、宇佐八幡宮を拝し、山国川をさかのぼって耆闍崛山羅漢寺に詣でんものと、四日市から南に赤土の茫々たる野原を過ぎ、道を山国川の渓谷に添うて、辿った。
筑紫の秋は、駅路の宿りごとに更けて、雑木の森には櫨赤く爛れ、野には稲黄色く稔り、農家の軒には、この辺の名物の柿が真紅の珠を連ねていた。
それは八月に入って間もないある日であった。彼は秋の朝の光の輝く、山国川の清冽な流れを右に見ながら、三口から仏坂の山道を越えて、昼近き頃樋田の駅に着いた。