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Japanische Klassiker mit Furigana

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おんしゅうのかなたに

恩讐の彼方に

菊池 寛

Lesen Sie 恩讐の彼方に (おんしゅうのかなたに) von 菊池 寛 (きくちかん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 22.824 Zeichen · 46 Bildschirme

Aozora Bunko

それは、ほんの小さい洞窟ではあったが、市九郎の強い意志は、最初の爪痕を明らかに止めていた。

が、近郷の人々はまた市九郎を嗤った。

「あれ見られい! 狂人坊主が、あれだけ掘りおった。一年の間、もがいて、たったあれだけじゃ……」と、嗤った。が、市九郎は自分の掘り穿った穴を見ると、涙の出るほど嬉しかった。それはいかに浅くとも、自分が精進の力の如実に現れているものに、相違なかった。市九郎は年を重ねて、また更に振い立った。夜は如法の闇に、昼もなお薄暗い洞窟のうちに端座して、ただ右の腕のみを、狂気のごとくに振っていた。市九郎にとって、右の腕を振ることのみが、彼の宗教的生活のすべてになってしまった。

洞窟の外には、日が輝き月が照り、雨が降り嵐が荒んだ。が、洞窟の中には、間断なき槌の音のみがあった。

二年の終わりにも、里人はなお嗤笑を止めなかった。が、それはもう、声にまでは出てこなかった。ただ、市九郎の姿を見た後、顔を見合せて、互いに嗤い合うだけであった。が、更に一年経った。市九郎の槌の音は山国川の水声と同じく、不断に響いていた。村の人たちは、もうなんともいわなかった。