Japanische Klassiker mit Furigana
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われにそむく
我に叛く
宮本 百合子
Lesen Sie 我に叛く (われにそむく) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 29.414 Zeichen · 59 Bildschirme
大きな青桐のかげ、耳を澄すと微に葉ずれの音のする椿や槇のこんもりした繁み。――雨戸を閉め切った大きな家は、星の燦く空の下で、悲しく眠り傾いたように見えた。
――丁度、×町へ来てから五日目の朝であった。
ゆき子は、珍らしくその日は起き抜けから創作欲の亢奮を覚えていた。前夜、晩くまで読み耽った或る科学者の伝記が、持病になりかけた彼女の感傷を追払った。二三日来とかく頭を曇らしていた陰鬱は去り、朗らかな愛と勇気とが、曇のない朝の光線と共に、爽やかに身内に感じられるのである。
健康な熟睡から醒め、体を洗い、彼女の肉体の潔らかさと共に魂の貞潔まで感じるような心持がした。息は深く、四肢に人間らしい力が漲り、自分の精神によってこの世に産れ出ようとする愛すべき無形の何ものかに、全心が本能の慕わしさで牽きよせられる気がするのである。
ゆき子は、早めに朝飯を終り、出勤する父親を見送ると、そのまま自分の部屋に引取った。そして、下見窓から流れ入るほどよい朝かぜにかこまれ机に向うと、彼女は、嬉しさで心がときめきを感ぜずにはいられなかった。
「これでこそ来た甲斐がある!」
ほんとにこの間じゅうのようでは、来ない方がよかったとさえいえる状態であった、あれほど固執して×町へ来た価値が何処にある。