Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あるさっかのやくび

或る作家の厄日

豊島 与志雄

Lesen Sie 或る作家の厄日 (あるさっかのやくび) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.284 Zeichen · 21 Bildschirme

Aozora Bunko

」

彼女は独語のように呟いた。二人がどうしてこんなことになったか、それを指すのだ。然し、理由のないところにこそ、真の愛情があるのだ。

おれたちは、極めて自然に、初めからそうきめられていたかのように、手を執りあい、互に寄り添い、唇を接した。どうしてそうなったか分らないのだ。相互の牽引力とでも言おうか。いささかの摩擦もなかった。

おれの方には、骨もあり、筋もあり、爪もあり、角ばったところもある。だが彼女には、そういうものが一切ない。肥満しすぎてるのでもなく、贅肉が多すぎるのでもないが、全体に丸っこいのだ。顔立ちはふっくらしているし、首が短くて肩が丸く、腰つきが丸っこく、踝も丸っこく、乳房は充実しきった球形をしている。その姿態にふさわしく、言葉つきも感情の動きもすべて丸っこく、ふうわりしている。おれが飛びかかっていっても暴れても、どこにも手掛りはなく、真綿の中に転り込んだような工合だ。そしてその真綿全体に、おれは心身とも素っ裸のまま包みこまれてしまう。諦めて、眼をつぶって、甘ったれるより外はない。四十五歳のこのおれが、彼女に対しては、ただ甘ったれるだけの能しかないのだ。