Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あるさっかのやくび

或る作家の厄日

豊島 与志雄

Lesen Sie 或る作家の厄日 (あるさっかのやくび) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 10.284 Zeichen · 21 Bildschirme

Aozora Bunko

しいんとしている。水底の感じだ。物のけはいに振向くと、室の入口にさよ子が突っ立ている。おれはぞっとした。まるで幽霊だ。も一人の幽霊が、駆けこんで来た。女中だ。おれよりも力が強い。

瞬間に、おれは立ち直った。もう憤怒はない。憎悪もない。冷静な態度で、元の座に戻って、あぐらをかき、ジンのグラスを取り上げた。それをすすりながら、アスパラガスの缶詰を指差した。

「これを開けてくれ。」

誰も返事をしない。女中は屈みこんで、硝子の破片をゆっくりゆっくり拾っている。さよ子は縁側にうづくまり、障子に顔をかくし、ハンカチを眼に押しあてている。二人ともまるで狂人だ。おれは途方にくれて、怒鳴りつけた。

「返事をしないか。これを、これを開けるんだ。」

缶詰を畳の上に投り出してやった。気が狂うと人は唖になるものなのか。二人とも黙ったままだ。それでも立ってきて、アスパラガスとマヨネーズとを皿に盛ってくれる。おれはジンを飲もう……。