Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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あるおとこのしゅき

或る男の手記

豊島 与志雄

Lesen Sie 或る男の手記 (あるおとこのしゅき) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 43.279 Zeichen · 86 Bildschirme

Aozora Bunko

私呆れて返辞も出来ませんでしたわ。それからが過去の問題なんです。……ああ、もうお話しましたわね。で私は、松本さんが私と河野さんとの間を疑っていらっしゃるのだと思って、そんな邪推を受ける覚えはないと、繰り返し云ってやりましたの。所が松本さんは、あなたの方が私の云うことを邪推してるんだって、そう仰言るじゃありませんか。それから面倒くさい理屈になって、私ほんとに弱ってしまいましたわ。恋愛は人間の一種の煉獄で、それに飛び込むには、過去を懺悔し合い赤裸々になって、なお未来を誓うだけの勇気がなければ、いけないんですって。それからまだいろんなむつかしいことを仰言ったけれど、私一々覚えてやしません。そして私が、愛というものは理屈じゃなくて、どうにも出来ない気持の上のものだと云うと、それにも賛成なさるんでしょう、結局何のことだか分りやしないわ。それから変にちぐはぐな気持になって、長い間黙り込んだりしてるうちに、時間がたってしまいましたの。松本さんは喫驚したように時計を見て、もう帰らなけりゃいけないんでしょうと仰言るんです。河野さんの家へ帰るのは厭だと云うと、でも今晩は帰らなけりゃいけないと仰言るんです。