Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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ゆびとゆびわ

指と指環

佐左木 俊郎

Lesen Sie 指と指環 (ゆびとゆびわ) von 佐左木 俊郎 (ささきとしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.538 Zeichen · 12 Bildschirme

Aozora Bunko

自動車へ乗ったと思ったのは錯覚だったのだ。併し婦人は、驚異の眼をっている彼の顔を見ると、すぐに乗合自動車のステップに足をかけた。彼は、動き出したその乗合自動車に飛び縋った。

車内は山の手へ帰る人達で一杯だった。婦人は漸く中の方に腰をおろすことが出来た。彼は無理矢理に這入って行った。そして彼は婦人の前に立った。と、婦人は、彼の顔を見上げた。彼は浄い恥ずかしさを感じて、視線を距てるためにポケットから夕刊を抜いて拡げた。

併し、彼は夕刊を読むのでは無かった。彼の空想は婦人の美しい指の上で跳っていた。あの指の上でなら、この指環は、きっと素晴らしい芸術的な雰囲気を描き出すに相違ない。あの白い指の上で、青く赤く紫に、きらきらと、輝いて……。だが一体この話はどう切り出すべきだろう?……。

乗合自動車は停留所ごとに人溜まりを呑んで、身じろぎも出来ないほど詰め込んだ胃袋を揺す振りながら、ごとごと走った。靄に包まれた柳並木の濠端に沿うて、ヘッド・ライトの明るい触角を立てながら、日比谷から桜田門、三宅坂の方へと上って行った。

銀座はまだ賑わっていた。その裏露路だった。