Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

――」

吹きつける風が千鶴子のドレスをぴたりと身体につけたままはたはたと裾を前方に靡かせる。

「コロンボまで来たとき、一番日本へ帰りたいと思いましたが、ここまで来ると、もうただわくわくするだけで、何んだかちっとも分らなくなりましたわ。」

矢代は軽く頷いた。彼は今の自分を考えると何となく、戦場に出て行く兵士の気持ちに似ているように思った。長い間日本がさまざまなことを学んだヨーロッパである。そして同時に日本がその感謝に絶えず自分を捧げて来たヨーロッパであった。

地中海へ這入って以来、憧れの底から無性に襲うこのようないら立たしさは、船が進めば進むほど矢代の胸中に起って来たのも、やはり来て見なければ分らぬことの一つだと矢代には思われた。全くこっそりと起る人知れぬこんな心は、悪用すれば際限のないものにちがいない。先ず静かに寝かしつけておこうと思っても、何ものか寝てる子供を揺り醒ますものが絶えず波の中から霊魂のようにさ迷うて来るのだった。間もなく、夕食の合図のオルゴールが船室の方から鳴って来ると、矢代はタキシイドを着替えに自分の部屋へ這入っていった。

船の中の食堂は最後の晩餐だというので常にも増した装飾であった。