Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
彼は露台の欄干を掴んだまま、足早やにいそいそと階段を降りてゆく真紀子を見降ろしながら、それでも彼女も自分のようにひと夜を楽しく安全に暮してくれるようにと願ってやまなかった。
真紀子の姿が見えなくなったとき矢代は桟敷へまた戻った。人気のない密房の中でタキシイドの肩からウォルトがひとり生き物のように匂って来た。舞台のトラビアタは今は高潮に達していた。しかし、矢代は胸から吹きのぼって来る楽しみに奏楽の美しささえももうまどろこしかった。殊に肩口の匂いの思い出も真紀子一人を犠牲にした貴い喜びだと思うにつけ、何んとか工夫に工夫をこらせてこの喜びをつづけてゆきたいものだと、子供のように浮き浮きするのだった。
ついに舞台では椿姫が、「ほら、こんなに脈が打って来た。もう一度これから生き返るのよ。」と云って喜び勇んで死んでいった。そうして、生き残ったものらの悲しみの奏楽の中に美しく長かった幕が降りた。
矢代はもうこの記念すべき房へは二度と来ることはあるまいと思い、よく桟敷を眺めそれから外へ出た。人人はオペラ座の出口から右角のカフェー・ド・ラ・ぺへ、夜食を食べにぞろりとした姿で雪崩れ込んだ。