Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

「あたしもここで降りてしまいたい。」

と千鶴子はミルクを紅茶に入れながら云った。矢代は千鶴子の声を聞くと、そうだ、千鶴子もここにいたのだと初めて気がついた。船の金具がきらきら水上から光って来る。夕栄の映った水明の上を帆船が爽かな白さで辷ってゆく。

「千鶴子さんは、わたしと一緒にロンドンまで行きましょう。若い人たちをここで降ろして、老人とよたよた行くのも、これも良ろしよ。」

マルセーユへ降りてからは、若者たちが千鶴子のことなど忘れてしまったのを早くも沖氏は見てとって云ったのだった。

しかし、一行のものの忘れたのは千鶴子だけではない、船中でのごたごたや人事のもつれなど今は吹き散ってしまい、大きな窓いっぱいに灯を拡げて来たこの異国の海港への望みに、もう足など地から放れて飛び流れている一行の有様だった。

食事がすんだころにはマルセーユの港は全く夜になっていた。一行は婦人の千鶴子を除いてこれから特異な街の情調を味いに行くのであった。これは船の中から一番つれづれの慰安となっていたものだけに、一同の期待は大きかった。

しかし、夜になって波止場の船へ一人千鶴子を帰すということは危険なことであり、殊にマルセーユの埠頭の恐ろしさは誰も前から聞き知った有名なことである。