Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
矢代は鏡に映った自分の顔を眺めながら、さも安心しきったようなほくほくとしているその顔のどこに価いがあるのか分らなかった。しかし、とにかく、理性で讃美しかねる事柄に屈服してしまった女女しい顔の喜び勇んだ有様は、ある勇敢な野獣の美しささえ頬に湛えているので、われながらあっばれ討死したものだと一層後悔もなくのんびりとして来て、ある憎憎しさもまた同時に自分の顔から感じるのだった。
それにしてもどうしてまたこんな風になったものだろう。事件というのは、ただ自分が千鶴子の腕を自分の腕の中にほんの暫く巻き込んだだけではないか。
矢代は自分のこれまで習得した幾分の科学も歴史も哲学も、いったい何んだったのだと、突然このとき疑い出した。まったく、頭のどこかに昨日までなかったある一種の生理的な変動が生じたというだけのことで、こんなに一切の学問らしいものが無力に見えてしまうということは、これはただごとの筈はない。もしもこれが失恋に変ったならばなおさらだった。しかも、この危く脆い心をそれぞれ持ち廻って動いてやまぬのが人の世界だと思うと、ここに火を噴き上げている恐るべき火口があるぞと、今さら迫っている噴煙の景観を望む思いで矢代はまた倦かず鏡の顔を注視した。