Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
「夫婦でヨーロッパへ来ると、主人が自分の細君が嫌いになり、細君が良人を嫌になるとよく云いますが、僕なんか結婚してなくって良かったと思いますね。」
千鶴子は笑いながらもだんだん頭を低く垂れ黙ってしまった。互に感じた胸中の真相に触れた手頼りなさに二人はますます重苦しくなり、矢代は今は千鶴子以外に船中に誰か人でもいて欲しいと思った。ああ、これが旅であったのか。この二人が日本人であったのか。こう思うと、突然矢代は千鶴子を抱きかかえ何事か慰め合わねばいられぬ、いらいらとした激しい感情の燃え上って来るのを感じた。
矢代はつと立ち上るとサロンの中央まで歩いて行った。しかし、何をしようとして立ち上って来たのか彼には分らなかった。水底へ足の届いた人間があらん限りの力で底を蹴って浮き上りたいように、矢代は張り詰めた青い顔のまま暫らくそこに立っていた。もう日本がいとおしくていとおしくて溜らない気持ちだった。
すると、彼の眼にマルセーユの街の灯が映った。日本からはるばるこの地へ来た自分の先輩たちは、皆ここで今の自分と同様な感情を抱かせられて来たのにちがいない。それは何とも云いかねる憤激であったが、しかし、間もなく、これもおのれの身のためだと思いあきらめ、身につけるべきものは出来る限り着つづけ、捨てるべき古着は惜しげなくこれを限り