Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
後から襲って来る不幸よりも、不幸を未然に防げたという意味にも解せられる千鶴子の力なげな様子が、またこうなると矢代には心配になり始めた。それも千鶴子の頭へ、これから帰って行こうとする日本の待ち伏せた生活が、早や波打ち上って来ているのにちがいないのである。しかし、何んと云おうと、どちらもわれわれの生活へ戻ってゆくのだと矢代は思った。それが不幸になろうと幸福になろうと、何を今から恐れたことだろう。――夢見るだけは、もうここで自分らは夢見て来たではないか。そんなら、帰れるものだけ早くさっさと帰れば良いのである。――
こんなに思うと、矢代も急に千鶴子を前へ突き動かしたくなって来て、
「さア、もう僕も帰りましょう。こんなにはしてられない。」
と云うとグラスに残った葡萄酒を一息に傾けた。彼は立って千鶴子に強く握手をしながら、寝過したら電話で起して貰いたいと頼み、
「さようなら。」
と云った。
千鶴子は手を出したまま握り返さず、黙って矢代の顔を見ていたが、本当に帰って行く彼を見ると後ろから急いで立って来て、
「じゃ、さようなら。」
と一こと云った。矢代は暗い廊下へ出てからエレベーターの前まで来て、上って来るボックスを待っていると、千鶴子は後から追って来て彼の傍にまた青ざめた顔で黙って立った。