Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
「あなた本当にお帰りになるのね。」
「帰ります。」
と矢代は灯の点いたエンジケイタの針の動きを眺めて云った。針が五階に近づいて来たとき、千鶴子は肩を寒そうにつぼめ、
「雨まだかしら。」
と云って窓のない廊下の外を覗う様子を一寸しかけ、また矢代を見た。矢代はボックスが停ると千鶴子の肩を押した。
「君もうここでいいですよ。じゃ、また。」
闇の中に光っている大きな千鶴子の眼を見ながら、矢代は笑顔を軽く作って下へ沈んでいった。彼は奇蹟に似たものが体内で激しく起っているような、何か気違いじみた素晴しく軽い飄然とした気持ちだった。
ホテルの外へ出てからも彼はやみかかった小雨の中をルクサンブールの方へ歩いた。五階の千鶴子の窓の灯がもう消えたかと思って仰ぐと、窓はもう前から開いていて千鶴子がそこから下の通りを覗いていた。矢代は早く眠すみなさいという意味の手枕の真似をしてみたが、黒い影のように見える千鶴子の姿が、
「どういうこと、それ?」
と訝るらしい首の曲げ方で答えた。その千鶴子の様子は、なまめかしい悩みを顕している風にも矢代には見え、一瞬強く足の立ち竦む思いに打たれるのだったが、それもどういう作用で切りぬけているものか彼も分らぬまま、また歩いて街角を曲った。