Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
「ああ美味い。」
矢代は今は完全に素肌の感覚に戻り身を震わせて云った。彼はふとパリのノートル・ダムで繊細巧緻な稜線の複合した塔の姿を見たときに、胸のときめきを覚えた自分を思い出した。しかし、今のこの野人の爽かな身震いは、ソロモンの栄華の極みだに野の百合にも及ばざらんと歎じた、聖書の文句の意味となり、彼にはある特別な感動を伴って激しく貫き透って来るのだった。
「パンがもう焼けてますよ。」
と母は庭から戻って来た矢代に云った。朝食を急激に和食に変える辛さを母は想ったものか、彼女から矢代にそう訊ねたとき、朝だけはパンにしたかったいつもの癖が出て、うっかりパンと答えてしまったが、今の彼にはこういうことも自己批判めいた種となって、一途に烈しく和色に偏してゆこうとする自分の保守さ加減も、まだ徹底出来ぬのだと思った。
「パンか。」
テーブルに向い、トーストを裂いて食べながらも、矢代は妙に自分の中で争うのだった。それは丁度、争いの種子を噛み摧き、嚥み下すような調子だったが、しかし、これからいちいち食い物までこんなに気になって来ては、これは堪らないとまた自分に抵抗もした。