Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme

Aozora Bunko

「千鶴子さん、あなたお疲れになったでしょう。」

と矢代は云った。

「いいえ。」

眼を上げた千鶴子の顔に、走り停った強い光彩がぼッと赧らみを加えて来た。

「僕はさっきも塩野君に云ったのですが、用心されないと病気をしますよ。あなた大丈夫でしたか。」

「ええ、でも、もういいんですけど、しばらくは何んだか変に疲れましたわ。」

物いうのさえ何んとなく恐わそうだった千鶴子の顔から、拡がりすぎてゆく漣に似た速さでかき消えた愁いがあった。

「あのときはとにかく面白かったですね。」

と矢代は無意味に云ったが、あのときとはいつだったか考えもしなかった。実際彼は、もう面白いのはあのときで良いと思うのだった。まだこれ以上の面白さを二人でつづけようなどという慾深さは、ただ贅沢なことかもしれぬと思うあきらめに変りはなかった。

「あたしこんなに幸福でいいのかしら。こんな幸福は、いつまでもつづくものかしら。」

とチロルの山の上で洩した千鶴子の吐息も、今にして意味深く矢代には思われて来るのだった。「おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな。」こんな芭蕉の句も彼はふと思い出し、心にくいまで巧みな旅愁の表現力だと腹立ちさえ覚えまた千鶴子の顔を見た。