Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
見ていると、鴉は一向に枝から飛び立ちそうな様子もなかった。そして、欠伸をする恰好で口を大きく開けたり閉めたりしては、翅をときどき拡げ、また同じ欠伸を繰り返していた。翅を拡げるたびにその一本の枝だけ、雲行きの早い空の中で揺れつづけて騒いだ。
襟もとの薄寒く冷え込むまま、人通りのない初冬の往来に立っていても、矢代は、枯枝に留った鴉の黒い色がもう不吉な色には見えなかった。むしろ今は、その鴉から黙黙として滅んだ先祖の運命を徳とする理由を素直に発見出来たことに欣びを感じた。それはまた矢代のみとは限らず日本人の平民なら、各自探せばそれぞれ共通して発見し得られる同じ欣びでもあり、また誇りともなるにちがいないことだった。矢代はそれが何より嬉しかった。
彼は鴉の留っている枝から眼を転じてまた他の枝枝を眺めてみた。どの先端の細かい小枝もみな大枝に連がり、一本の幹となって立っているのも争われず日本の姿と斉しかった。ただ鴉に留られた枝は少し他の枝と違っており、その枝の不幸なだけ、他の枝枝が強い弾力を貯え得られたことは、それ以来引きつづいて逞しく育って来た今の姿を見ても分った。