Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
「綺麗ですね。」
と口に出した。千鶴子は傍のものが矢代だと識ると、どういうものかっと身を退けて甲板からサロンの中へ這入ってしまった。慎しみ深い大きな眼の底にどこか不似合な大胆さも潜めていて、上唇の小さな黒子が片頬の靨とよく調和をとって動くのが心に残る表情だった。
次の日、地中海は荒れて船の動揺が激しくなった。矢代は夕日の落ちかかろうとするコルシカ島の断崖を眺めながら、甲板の上に立っていた。ときどき波が甲板に打ち上った。あたりは人一人も見えず冷たい風が波の飛沫とともに矢代の顔に吹きかかった。彼は欄干に肘をついたまま立ちつづけていると、後ろのドアが開いて近づいて来た靴音がぴたりと停った。矢代は煙草に火を点けたがマッチは幾本擦っても潮湿りの風に吹き消された。彼はマッチを取りにサロンへ戻ろうとして後ろを向くと、そこに食堂へ這入る前らしい千鶴子が花模様のイブニングで一人立っていた。
「あのう、失礼ですが、パリのほうへいらっしゃるんでございますか。」
と千鶴子は寒さで幾分青ざめた顔を真直ぐに矢代に向けて訊ねた。
「そうです。」
「じゃ、もう明日お別れですわね。皆さん、そわそわしてらっしゃいましてよ。