Japanische Klassiker mit Furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lesen Sie 旅愁 (りょしゅう) von 横光 利一 (よこみつりいち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 576.941 Zeichen · 1138 Bildschirme
もう気羞しさもなく、躊躇もない、許された日の灯火の下でめぐり合った二人のように、物狂わしい幸福感で互に一層温められた。港港で浴びた潮の香の思い出さえ、時を得た花に似て二人の間に咲き揃って来るのだった。しかし、このような二人が、パリで別れて東西の帰路をそれぞれ辿って来て、そして、今この港の埠頭で初めて会うときが、丁度こんなであっただろうと思い合うことは、実際、どちらにも少し遅すぎて来たのだと矢代は気付くのだった。
「あたし、一寸お訊きしたいこと、頼まれてるんですよ。」
と千鶴子は何か忘れていたことを思い出したらしく云ったが、すぐどういうものか、あまり近づきすぎている顔を背けて真っ赧になった。
「何んです。」
「でも、それは後からお訊きしますわ。」
千鶴子はまた、船に対って手巾を振りつづけたが、そのときはもう下船準備の命令が出たものか、甲板の上ではそれぞれ乗客たちが後を見せて散って行くときであった。
船客たちが梯子を降りて来ると、ホームの上に幾つも出迎えの人人の輪が出来た。挨拶をするにも握手を身につけた手振りでするものが多かったが、気羞しげに船客を取り巻いたまま無言で遠くから見ているものや、いきなり冗談を浴びせるものらの中で、真紀子もすぐ千鶴子に近よって来て、握手をした。