Japanische Klassiker mit Furigana
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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
Lesen Sie 日本の怪談(二) (かにのかい) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 80.664 Zeichen · 171 Bildschirme
小八は体をに洗ってあがった。
室にはもう膳が来ていた。宵に川魚の塩焼などをつけてあったお菜は皆精進にしてあった。小八の頭はみょうに緊張を覚えた。
婢が膳をさげて往くと、主翁が入りちがってはいって来た。
「もう案内者も来ておりますから、お出かけなさるが宜しゅうございます」
小八は風呂敷包の中から着更の単衣を出してそれを着、手荷物や笠などはその儘にして出かけようとする時、小八の準備するのを黙って見ていた主翁が口を出した。
「宵にも申しましたとおり、亡者が露われても詞をかけてはなりませんよ」
小八は頷いて店頭へ出た。案内する男はもう提灯に灯を入れて庭に立っていた。主翁や婢も店頭へ来た。
戸外は寂然として風の音もなかった。小八と案内者は提灯の明りを路の上に落しながら、宿の横手から山路を登って往った。谷川にかけた土橋の下では水の音がざざと鳴っていた。二人は黙って歩いていた。不意に嬰児の啼くような声をだして頭の上の方で啼く鳥があった。脚下に延びはびこった夏草の中をがさがさと這う音もした。しかし、小八の耳にはそんな物は何も入らなかった。彼は懐しい女房の姿に接することができると云う喜悦と好奇心で一ぱいになっていた。