Japanische Klassiker mit Furigana
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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
Lesen Sie 日本の怪談(二) (かにのかい) von 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 80.664 Zeichen · 171 Bildschirme
尼になった老婆
なむあみだぶ、なむあみだぶ、こんなことを口にするのは、罪深い業でございますが、門跡様の御下向に就いて思い出しましたから、ちょっと申します。その時は手前もまだ独身で、棒手振を渡世にしておりました時のことでございますから、さあ、文政の二三年、いや、もうすこし後でございましたかな、東本願寺の門跡様が久かたぶりで御下向遊ばすと云うことになりますと、江戸は申すに及ばず、近郷近在にかけて、それはもう煮えかえるような大騒ぎ、わけて熱心な者は、江戸ではとてもお姿が拝めない、箱根あたりまで出かけて往って、お駕籠といっしょに歩いていたなら、万に一つも拝めないと云うことはないと申しましてな、藤沢から小田原にかけて、我も我もと出かけてまいりました。手前も門跡様がお着きになると云う日は、朝から渡世を休んで、鈴ヶ森の手前まで往って待ち受けておりました。ちょうど花の比で、陽はまだ高うございました。風の無い暖かな日で、磯際へかけて溢れていた人の額に、汗が出ると云うような暖かさでございました。もう干潮に近い比で、海苔しびを立てた洲が一面にあらわれておりましたが、その日は干潟へおりて、海苔や貝を採る者も一人もないので、白い鴎が我が物顔に遊んでおりました。