Japanische Klassiker mit Furigana
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はるのまぼろし
春の幻
豊島 与志雄
Lesen Sie 春の幻 (はるのまぼろし) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 2.888 Zeichen · 6 Bildschirme
日向にまどろんでる猫は、無神論者……というより寧ろ、無神者である、彼が所有してる神もなければ、彼に君臨してる神もない。神のない世界に日向ぼっこをしている彼は――淫蕩な身体をうっとりと横たえてる彼は、刹那主義の享楽者である。そして、神のない地上の刹那々々の享楽は、如何に蠱惑的でまた力弱いことであろう! 其処に、春の歓楽と哀愁とがある。一の面影を石に刻み込むだけの力強い執着は、この世界には存在し難い。一の面影から他の面影へと転々と移りゆく所に、若々しい生命の喜びがあり、忘られた面影やまだ見ぬ面影が現在の面影の上に重なってきて、やるせない惑わしが生ずる所に、神のない楽園の悲しみがある。
此の世界を見つめていると、もやもやっとした中から、次第にさまざまな象が浮出してくる。――その少しを捉えてみよう。
桃や桜や菜種や紫曇英などの花が咲き乱れている。葉が少くて花が多く群ってるのは、宛も人造花の姿である。自然に咲いた花によりも、室咲の花、紙や布で拵えた花、それにより多く似てるそれらの花が、如何に華かでまた淋しいか! そして上には、日の光の曇った盲いた空が、余りに強い光や風を防ごうとするかのように、軽やかではあるが低く狭く垂れている。