Japanische Klassiker mit Furigana
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はるのとうぞく
春の盗賊
Lesen Sie 春の盗賊 (はるのとうぞく) von Dazai Osamu (太宰 治) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 29.212 Zeichen · 58 Bildschirme
もう少しで死ぬところであった。黄昏どきになって、やっと、しゃっくりもおさまり、けろりとして机のまえに坐っていた。しゃっくりは、それが、おさまったとたんに、けろりとするものである。たったいままでの、あれほどの苦痛を、きれいさっぱり、それこそ、根こそぎに忘却してしまうものである。ああ、いまのしゃっくりは、ひどかったなど、そんな思い出さえ、みじんも浮ばず、心境が青空の如く澄んで一片の雲もなく、大昔から、自分はいちども、しゃっくりなんか、とんと覚えがなかったような落ちつき。私は机に向い、ふと家郷の母に十年振りのお機嫌伺いの手紙を、書きしたためようと、、突拍子もない衝動を感じた。そのときである。パリパリという、幽かな音が、窓の外から聞えて来た。たしかに、雨傘をこっそり開く音である。日没の頃から、雨が冷たく降りはじめていたのである。誰か、外に立っているにちがいない。私は躊躇せずに窓をあけた。たそがれ、逢魔の時というのであろう、もやもや暗い。塀の上に、ぼんやり白いまるいものが見える。よく見ると、人の顔である。
「やって来たのは、ガスコン兵。」口癖になっていた、あの無意味な、ばからしい言葉。