Japanische Klassiker mit Furigana
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ほんじょまつざかちょう
本所松坂町
尾崎 士郎
Lesen Sie 本所松坂町 (ほんじょまつざかちょう) von 尾崎 士郎 (おざきしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 27.622 Zeichen · 55 Bildschirme
草相撲のさかんなこの土地でも、大人の力士に伍して、大関とまではゆかないにしても三役から下ったことはなかった。
お絹は小さい頃から、母といっしょに藤左衛門の家へ、農繁期の手伝いにゆく習慣がついているので、ひとり息子の藤作とは兄妹同様に扱われている。
親孝行――なぞというと近頃はすっかり流行おくれの肩身のせまい廃り言葉になっているが、子供の権利だとか義務だとかいうことがうるさく宣伝されない時代のことである。前の年(元禄四年)の秋から藤左衛門が軽い中風の気味で寝つく日が多くなり、藤作は一人で大人の三倍も稼いで祖母と母と病気の父親を養っていた。
燈芯のうすい行燈の灯が破れた障子にうつる。土門をはいると野良着のままで薪を割っている藤作の姿が見えた。
「ああ、よかった」
と、お絹はひとりごとのように呟き、ほっと溜息をついた。
「何だ、お絹ちゃん」
藤作はお絹が嫌いではなかった。うす闇の中から彼女の顔があらわれたとき、彼は妙に胸のはずむような思いがした。どうして、そんな気持になったのか自分にもわからぬ。とたんに、お絹がじっとさし俯向いてしまった。おどおどしている彼女の素振りにはいつもの明るさはなかった。