Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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とうかいどうごじゅうさんつぎ

東海道五十三次

岡本 かの子

Lesen Sie 東海道五十三次 (とうかいどうごじゅうさんつぎ) von 岡本 かの子 (おかもとかのこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.849 Zeichen · 28 Bildschirme

Aozora Bunko

私の父は潔癖家で、毎朝、自分の使う莨盆の灰吹を私に掃除させるのに、灰吹の筒の口に素地の目が新しく肌を現すまで砥石の裏に何度も水を流しては擦らせた。朝の早い父親は、私が眠い目を我慢して砥石で擦って持って行く灰吹を、座敷に坐り煙管を膝に構えたまま、黙って待っている。私は気が気でなく急いで持って行くと、父は眉を皺めて、私に戻す。私はまた擦り直す。その時逆にした灰吹の口に近く指に当るところに磨滅した烙印で吐月峰と捺してあるのがいつも眼についた。春の陽ざしが麗らかに拡がった空のような色をした竹の皮膚にのんきに据っているこの意味の判らない書体を不機嫌な私は憎らしく思った。

灰吹の口が奇麗に擦れて父の気に入ったときは、父は有難うと言ってそれを莨盆にさし込み、煙管を燻らしながら言った。

「おかげでおいしい朝の煙草が一服吸える」

父はそこで私に珍らしく微笑みかけるのであった。

母の歿したのちは男の手一つで女中や婆あやや書生を使い、私を育てて来た父には生甲斐として考証詮索の楽しみ以外には無いように見えたが、やはり寂しいらしかった。だが、情愛の発露の道を知らない昔人はどうにも仕方なかったらしい。