Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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くりのはなのさくころ

栗の花の咲くころ

佐左木 俊郎

Lesen Sie 栗の花の咲くころ (くりのはなのさくころ) von 佐左木 俊郎 (ささきとしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.440 Zeichen · 14 Bildschirme

Aozora Bunko

美津子はぎらぎらと濡れた眼に驚異の表情を含んで凝っと父親の顔を見た。二人ともそして何も言うことが出来なかった。

「美津! お前は少し痩せたでねえか?」

嘉三郎は、しばらくしてから娘の手を握った。

六

雨の中を、嘉三郎は、朝飯前に自分の家へ帰って、炉端へ坐ったまま黙っていた。

「美津はどうしていたかね?」

松代は不安そうにして聞いた。

「何も心配しねえでいいだ。」

嘉三郎はそう言ったきりで、また黙りつづけた。

そこへ、近所の百姓女が来て、上り框へ腰をおろした。

「美津ちゃんは、近頃、どこかへ行ってますか?」

百姓女はそう突然に聞いた。

「東京へ勉強にやりましたよ。今時は、女でも、学問がないと馬鹿にされますでなあ。兄妹で行ってるんですあ。」

嘉三郎はそう髭を稔りながら言った。そのとき、ふと嘉三郎は、昨日、頬髭の逆剃をしていないのに気がついた。彼は髭を捻りながら立ち上がった。

「馬鹿に栗の花の匂いがするなあ。松や! 今年の秋は、栗を沢山採って、東京さ勉強に行っている奴等に送ってやれよ。」

嘉三郎はそう言いながら、剃刀と鏡とをもって、縁側へ出て行った。

――昭和七年(一九三二年)『若草』